在宅介護における介護離職、そして介護放棄や介護殺人といった痛ましい事件が昨今頻発しています。介護を中心とした福祉政策は、いったんは在宅へと傾きましたが、再び入所系施設へとシフトしつつあります。というのも、現役世代の家族介護による離職を食い止めるために約50万人分の受け皿整備をすることが安倍政権で合意されました。もちろんこの受皿には特養も入っています。
しかし、特養を取り巻く環境はここ数年で変化しています。まず医療や介護のついた有料老人ホームやサ高住と比べても特養はもはや割安感がない、価格におけるアドバンテージが無くなっているのです。
特養入所者は介護度が高く、またほとんどの入所者が医療が必要であるためにせっかく入所してもわずか数カ月で病状が急変し入院というケースもあります。だから特養としては、介護度は高いけれど病状が安定し医療の必要性が無い人を確保したがります。しかし、そういう人は有料老人ホームやサ高住でも暮らしていけるために、そちらの方と早々に契約をしてしまっているわけです。
またスタッフ不足も深刻です。人件費は年々増加し、特養の経営を圧迫します。実際、赤字経営の特養は全体のおよそ3割弱と言われています。このような特養では入所費の高いユニットを一時的に閉鎖するなどしてしのいでいます。このような状況では50万人分の受皿確保はおろか、現状の特養も安定して入所者を受け入れることができません。
介護離職を食い止めることはアベノミクスの2番目のステージ、国民がすべて等しく活躍できる社会の構築の柱です。もう何年も前から言っていますが、福祉の問題は待ったなしです。目に見えて社会に影響が出始めたころにはすでに手遅れなことが多いのです。このことを政府はよく認識してほしいものです。